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 突然の揺れと落下が、自然現象―――つまりは、地震でないことを理解するのに、リセは数秒を要した。
 その間何を考えていたかと問われれば、まず最初に思いついたのが重力への反抗だった。
 床のが崩れ落ちていく感覚に戸惑い……しかしながら、今は一緒に居合わせたキサラの安全を確保すべきである。そんな一瞬の判断から少し遅れて、彼はその隣人の少女の腰を抱えた。
「きゃああっ! なにっ? なんで落ちるのっ?」
 やけに冷静なリセとは違い、キサラは急なアクシデントにかなり動揺しているらしい。
 それもそのはずだ。
 普通に暮していて、こんなことに慣れていたりするほうがどうかしてる。
 尤もリセは、そのどうかしてる部類に振り分けられてしまうのだろうが……。
 なにはともあれ、キサラの台詞が終わらぬうちに、リセは久しぶりに「天使」としての行動を始めていた。


 念じると、背には純白の翼が大きく象られる。

 はばたき、リセはキサラを抱えたままほんの少し上昇して……。
 その刹那、ずがぁぁぁぁぁっ!というものすごい轟音と共に、二人の眼下で畳の床が土煙をあげてバラバラになった。

「……っ、あっぶねぇ……」
「…………う、浮いてる!」
 二人の声がデュエットする。
「……って、リセっ? すっごい! ほんとにほんとに羽があるんだねっ! きゃーカンドー! ね、触っていい? 触っても? ねぇっ?」
「ちゅーかまたんかっ! 目の前の状況を把握してみろ! 俺の部屋が落ちたんだぞ? 下の……一〇四号室の住人はっ……」
「あ、平気、たぶん……」
 キサラはリセに促されて、無残なアパートの姿を眺めながら言った。
 アパートの端は、巨大な鉄球に上から押しつぶされたかのように大破していて、かなりの重傷を負っている。もし下の部屋に人間がいたなら、確実にご愁傷様、であった。
「大丈夫だと思うよ……友枝さん、今日は確かラジオの生収録があって朝帰りだとか言ってたし」
 友枝、というのは、件の一〇四号室の主のことなのだろう。
 ラジオの生収録という用事の方に少々興味がそそられたが、そんなリセの心境を読み取ったかして、キサラが抱えられたまま付け加えた。
 抱えられてる、というのも妙な表現で、正確に説明すると、腰の部分のみをリセの腕につかまれ、身体はくの字に折り曲げられている。で、リセ共々、そのまま宙に浮いているのだ。
 ……とはまぁ、簡単にいうが、キサラの体重がそこそこ軽かったのが幸いしてできた芸当である。
「ああ、友枝さんね、声優やってんだよ。知ってる? えーとね、『ファクトリアース』っていう近未来もののアニメの脇役で―――」
「その話はいい。とにかくいないんだな、あそこには」
 リセはもう一度アパートの崩れた残骸に上空から目を移し、それから確認して胸をなで下ろした。
 二〇四号室と、その下の階の一〇四号室以外の部屋は全くの無害で済んでいる。
「それにしても……誰もこの騒ぎに気付いていないのか……?」
 一向に気配のない他の住人に気がついて、リセが呟いた。
「あー、だって大家さん含めてみーんな、この時間帯は出かけてるから」
「どこにっ?」
「みんな夜型のお仕事みたいよ」
 キサラの返事は、なんとなくだが茶を濁したようなものだった。
「……っていうより、一体何がおこったの? 地震……ってわけじゃなさそう……」
 さすがに、アパートの一部分のみが崩れ落ちているのをみて、これがただの自然災害だ、とは思えなかったらしい。その判断は間違ってはいない。しかし、説明は必要だろうとリセは思った。
「能力―――アビリティだな」
「あびりてぃ?」
「天使か悪魔の血をひいてる種族なら、人間の持てないなにかしらの特殊なチカラを持ってる。それがアビリティって呼ばれるものなんだ」
「……ん、具体的にはよくわかんないけど、……このアパートが崩れちゃったのもそのアビリティってやつの所為なの?」
「そーいうこと。このアパートを大破させたアビリティの使い手が―――なんの目的かは知らねーけど―――この近くにいるんなら、とっつかまえないと……」
「つかまえるって……」
「決まってる。逮捕さ。本来ヘヴンズのエージェントってのは、そういう迷惑千万なやつらを捕まえるのが仕事なんだかんな。つーか、もう降りるぞ。いいかげん、お前抱えて浮いてるの疲れたし……」
「え〜、もっと飛んでたいよぅ」
「アホ! 非常事態だぞっ?」
 それでなくても長く上空にいるのは体力を消耗する。
 リセはしびれかけてきた腕からキサラを落とさないように、慎重にゆっくりと、地面へ降り立った。
 じゃりっ。
 裸足が地面を少しだけこする。
 部屋の中にいた二人は、当然靴など履いていなかった。
「……リセも、アビリティを持ってるの?」
 キサラがつぶやく。
「当然。じゃなきゃエージェントなんて危険すぎてできないだろ」
「アパート壊しちゃうようなヤツとか……?」
 その質問には答えなかった。
 聞こえないフリをしていると、キサラはこちらの心情を読み取ったのか、それともただ単にどうでもいい質問だったのか、それ以上追及はしてこなかった。
 二人は、それぞれアパートを惜しむように見やってから、振返る。
 と―――。

「ちっ」
 ……その男は、深くかぶったフードの下で舌打ちしていた。

「!」
 リセの身体が硬直する。
「……お前は……」
 本屋にいた、片方の翼が漆黒の、『天使』。
 昼間見たままのその姿で、男がアパートの出入り口近くに立っている。
 フードは相変わらずだったが、夜の暗闇に必要のないサングラスは外していた。
(なんで、こいつがここに……?)
 確か、こいつは店長のストーカーではなかっただろうか―――と、リセは考えをめぐらせて押し黙った。
 店長のストーカーでないなら、本当にキサラが狙われていた?

 キサラは恐る恐る、と言った感じで、リセの背に隠れるように寄り添っている。
 無意識の内にそんな彼女を後ろ手でかばった時、目の前の男は再び口を開いた。
「……エージェントか……お前、ヘヴンズリンクを狙ってるな?」
 顔を上げた男の、ブラウンの双眸が闇の中で光った。
 視線は真っ直ぐ、リセを捉えている。
(こいつ、俺がヘヴンズの人間だって知ってるっ?)
 しかも、今彼はなんと言っただろうか。
 ヘヴンズリンク―――オミ。リセがオミを探している事まで知っているという。
 ザッ……。
 一歩退き、相手との間隔を開ける。
 リセの本能は、何かを察知していた。
 この男は危険だ―――それはそんな、シグナルのように感じる。
「狙ってる……っていうのは酷い言われようだな。俺は狙ってるんじゃない。保護するために探してる」
「ふん……どうだか……あの本屋でお前を見つけたときは驚いたが……どっちにしろ、ヘヴンズリンクが必要なオレとお前は敵同士。邪魔な芽は摘み取らないとな……そうだろ? 小林梨世」
「! なんで俺の名前知ってるんだよ、あんた!」
「さぁな。 あの世があるなら、そこで聞け」
 言葉と同じに、男が片腕を掲げる。
 この男の狙いは、リセだったのだろうか。

「キサラ! 避けろ!」

 男の手に、光の弾が形成されていく。
 閃光は、地面を裂きながら、リセ達に向かって放たれた。
「きゃああああっ」
「このアビリティ……『衝撃(インパクト)』!」
「な、なんなのぉ! リセっ?」
「アビリティの中でも、割と高度な技量を要する技だ……大概は特殊訓練をうけたエージェントしかその技術をもつことはできない…………まさか、あいつ……」
 リセは、つい先刻のクァンヴァントの台詞を思い出した。
 彼は……彼はなんと言っていた?

『その連中―――ヘヴンズの内部関係者が関与している疑いが強い』

 この男が内部関係者だとすれば、つじつまがあう。
 リセがエージェントだと知っていることも、アビリティを駆使できることも。
 そして、あの本屋での奇妙な行動は……。
(俺の行動を監視していた? ……いや、それにしては、態度がおかしすぎる……それに、こいつ、いまさっき本屋で俺にあって驚いたって言ってた……どういうことだ?)
「しぶといな……突然の奇襲もまんまと免れるし……今の衝撃波もまだ生ぬるいと?」
「くっ……キサラ、どいてろ! できれば遠くへ逃げたほうがいい」
「で、でも……」
「おっと……彼女を逃がそうなんて考えるな……」
 男は、続いて両手を掲げる。
 その掌に淡い光が灯っている。
「ちっ……二撃目……!」
 リセが左へ跳躍した。このまま避けているだけでは、どの道やられてしまう。
 対抗するには、こちらも攻撃を仕掛けなければならない。辺りにはアパート以外にも建物が存在するので、その範囲に気を配る必要もある。
 最小限で―――しかし、相手をひるませるような技は……。
「くそっ、ンなもんねーじゃねーかっ!」
 叫びながら、相手の掌の一際大きい閃光が、こちらに届かない内に唱える。
「『衝撃(インパクト)』、レベル・シルバー!」
 リセが唱えると、光りの球体が、勢い良く男のほうへと放たれた。
「っ? ……さすがに……扱えるらしいな」
 男は吐き捨てて、軽々と身をよじる。その隙にリセが地を蹴った。男の間合いに詰め寄り、肉体戦に持ち込もうという算段だった。
 が。
「こちらの攻撃を忘れてもらっては困る」
 猛々しい、空を切る音がした。
 男の拳から放たれた閃光……それがリセの光の球体を避けるようにカーブし、彼の横腹に直撃する。
「がはっ……っ!」
「リセェェッッ!」
「キサラ……馬鹿、早く逃げろって!」
「何よ馬鹿なのはそっちでしょ! 血が出てる!」
「こんくらいなんともないっ!」
 リセは泣き出しそうな表情のキサラに怒鳴った。民間人の彼女を巻込んで、危険な目に合わせるわけにはいかないのだ。
「なんともないだと……? へらず口を」
 男が口元を緩ませる。リセはその挑戦的な行為に、
「はっ……お前もヘヴンズ関係者なら知ってるだろ……? 天使の血族は、回復能力が優れてんだ。傷なんてすぐ治る」
「しかし……攻撃を受け続ければどうだ? 回復が間に合わなければ、天使だろうが一般人だろうが関係ない」
 ばしゅ!
 その風を切り裂く音は、男の台詞の後すぐにリセの耳に届いた。
 気付くとすぐに、鈍い痛みがみぞおちを襲う。
「……っ!」
 声無き叫び。
 見れば男の手刀が、腹部に食い込んでいる。
 だが逆にこれはチャンスだった。
「……っ……『衝撃(インパクト)』、レベル・プラチナ!」
「なっ!」
 激しい蠢きと共に、リセの体が発光する。
「ちょっと、リセ、りせぇぇぇぇっっ?」
 キサラの声が聞こえている。数秒間爆音が響き、アパートが少しだけ揺れた。
「ち……」
 男がよろめき、リセから離れる。ダメージは与えられた。しかし、崩れ落ちるように前のめりに倒れたリセと比べれば……彼にはまだ余裕があるようだ。
「リセ!」
 キサラが駆け寄る。
 リセの外傷は少ない。しかし顔色が悪くぐったりとしている。瞳も閉じられていた。だが、かすかに胸が上下している。
 ……生きては、いる。
「……な、なんなの……あなた、なんなのよぉっ?」
 キッと鋭い双眸で、キサラが男を睨み付けた。
 男はそれを待っていたかのようにフードを脱いで……そこから、まるで病床にある老人のような、やつれた顔を闇夜に浮かび上がらせる。
 彼は、うつろな目でキサラにささやいた。
「……こっちへ来い」
「……いやよ! どーして私が、あなたなんかに……それよりも、リセをこんなにして! 許さないわよ!」
「……来るんだ……さぁ……俺を天国へ連れていってくれ」
「いやだってば! ……天国って何よっ? わけわかんないこと言わないで……っ!」
「ずっと……ずっとあの本屋で機会をうかがっていた……しかしもう……時間が……ヘヴンズが動いている……」
「こないで……私は何もわかんないよっ! ……リセにこれ以上何もしないでぇっ!」
 ざっ、と近付く男に、キサラは倒れたままのリセをかばった。
 その時、リセのまぶたが重く開く。
「……くそ……」
 半身に、彼は力を込めた。なんとか起き上がれそうだ。キサラの被さった体を、押しのけるように立ち上がる。
 ―――使うしかないかもしれない。アレを……。
「リセっ? 駄目だよ、動いちゃ」
「動かないでいられるか!!」
 男が目の前まで迫る。
「ヘヴンズリンク……応じないなら、力ずくで……」

 ―――その直前だった。
「……いいかげんに、してぇぇぇぇぇっ!」
 

 キサラの声が、響く。
 とたん、今までで一番大きな風がアパートの周辺に集まり、耳を劈くようなうねりを帯びて旋回した。


「なにぃっ!」
「キサラっ……?」

 まばゆい光――― 
 光が包んでいたのは、キサラだった。
 リセは、真昼より明るい閃光のなか、うっすらと彼女の姿を捉える。
 キサラは小豆色の髪の毛を逆立ちにして、仁王立ちになっていた。まわりにオーラのようなものも見えている。
「もう、なんだかよくわかんないけど……私あなたみたいなひと、すーーーーぅっごく大っっ嫌い!」
「……な……な……」
 男が、途切れ途切れに声を漏らす。
 リセは我が目を疑っている最中だった。
 このチカラは知っている。おそらく自分が、もっともよく。
 攻撃専門アビリティの最高峰―――。
 それがどうして今、キサラを包んでいるのだろうか……?
 しかしその思考も、次のキサラの言葉とともに停止した。
「人を傷付けといてなんなの……っ? ちゃんと、はんせーしろぉぉぉっ!」

 きゅぼぉっ! 

 ゴムとゴムをすり合わせたような、そんな音がする。
 もちろん、そんな小規模のものではなく、激しく鼓膜を震えさせるような……そんな、巨大な振動。




 次の瞬間――これまでで、最大級の爆音と爆風が巻き起こる。
 なのに、まるで突然静けさが襲ってきたように、リセには感じられた。
 

 そして聞こえた……かすかな叫び声。

「何故……ヘヴンズ……リンク……お前は俺のものになるはず……」

 そこまでは、リセも覚えているのだが……その後はぶっつりと、意識が途絶えた。








『……男の身柄は無事……というわけではないが……確保させてもらったよ』
 リセの耳に、上司クァンヴァントの声が届く。
『彼の正体はやはり、ヘヴンズの元幹部だった。エージェントだった頃からオミの『ヘヴンズリンク』としての能力を狙っていたらしい。その後、ヘヴンズを辞職……ま、君を襲った動機などは残念ながら……記憶を失ってしまっている彼からは、聞けそうにない……。うまくすればオミの所在を知っているかとも思ったのだが』
「……そーですか」
 腕を吊られ、足を吊られ……。
 包帯をぐるぐる巻きにした体で、リセはモニタの向こうの渋い顔に返事をする。カーテン越しからはさわやかな風が吹き込んできた。
 都市区の、とあるヘヴンズ経営の病院。その個室は、やはり白一色の部屋である。
『君も大変な目にあったようだな……無事で何よりだ……いや、無事というわけでもないか。しばらくは体をゆっくり休めたまえ。本当にご苦労』
「……部長」
『なんだね?』
「ひとつ尋ねますが……オミのほうの捜索は、どうなるんでしょうか」
『まぁ、君が回復するまでは一時打ち切りだろう。他に抜擢できるエージェント……少なくともFブロック支部にはいないからな。今回の件で、アレを使ってしまった君の身体がいつ完全復活できるか、心配ではあるが』
「あ、そのことなんですが……俺、アレのアビリティは使ってな……」
 と、リセが言いかけたとき、病室の扉が開かれた。
「やっほー、リセ! 元気?」
 花柄プリントのブラウスに、レースのついたブリーツスカートの少女が現れる。
『……おっと、見舞いかな? また連絡しよう。ああ、ちなみにエアコンは直してもらえたぞ。君のおかげだ、リセ』
 ぶつ。
 ……クァンヴァントの通信が切れる。
 リセはドアに目をやった。
 にこにこと笑っている彼女にむかって、
「……キサラ……お前ノックくらいしろ!」
「まー! せっかくお見舞いにきたのにぃ〜、そういう言い方ないでしょ」
「……なんか、怪我が酷くなりそうだ……」
 頭を抱える。
「具合どうなの? もう一週間も入院してるけど……」
「心配するほどじゃないよ……」
「ああそっか、回復能力が人間より優れてるんだっけ……なんか不思議ぃ。あんなにすごい、ぼろぼろだったのにねぇ」
「俺はお前のほうが不思議だよ……あんだけの衝撃波の中で……なんで傷ひとつ……」
 リセはキサラを見て、そこでハッとした。
 何かものすごい事に気が付いてしまった気がして、だんだんと胸の内側から押し寄せる不安にかられる。
 あんな衝撃の中で?
 特殊な訓練をうけて、エージェントをやっているリセがこんな大怪我を負ったのに……?

「そうだ、あの男のひとはどーなっちゃったわけ? のびてたけど」
 キサラはお見舞いのために持ってきたらしい生け花を、花瓶に移し替えようとしながらたずねてきた。
「ヘヴンズが捕獲したよ。裁判の後、処分が決まるだろうな……なんせあいつが元凶で、アパートが全焼しちまったようなもんだし……俺への傷害罪と、器物破損方違反で間違いなく有罪」
「……ふーん……あ、あとね、あの人妙なこと言ってたんだけど」
「何?」


「私のこと、ヘブンズリンクだって」
「……は?」


「何の事だろうね?」
「…………ちょっとまて……お前の名前は、確かキサラだろ?」
「今更なに言ってるのよ、あたりまえでしょー?」
「……だよな」
「そうよ。私の名前は麻績(おみ)キサラ。それ以外に名前なんてないもん」
 
 キサラが胸を張って答える。

 リセは言葉がすぐに出てこなかった。
 だが、一度ごくん、と喉をならすと、かすれた声で確認する。

「……今、なんて……」
「だから、私は お み キ サ ラ ……だってば。……あれ、フルネーム言ってなかったっけ?」


「………………あのさ……お前……前にいってたな……本棚ひっくり返した事があるって」
「……え? ああ……そうなの。実は私、ときどきそういう超現象? 起こしちゃうんだよね……」
「ちょう……げん……って、あの……」
「なーんかちっちゃい頃から、わけわかんない事がまわりで起るのよ。でねー、しかもその後かならず貧血起こして倒れるの。リセが病院運ばれた時も、私一緒にとなりのベッドでねてたんだよ。一晩だけだったけどね。あのすっごい光はなっちゃったら、モー疲れて疲れて」
「……あ、あのー……別のことも、きいてもいいか?」
「ん?」
「お前の両親の話……とか……」
「ああ! そーそーそれ! リセに聞かせたかったの! なんとね! うちのお母さんは天使と人間の混血でねっ、お父さんは悪魔と人間の混血なのっ! ど? 珍しいでしょっっ? あ、そうだ、忘れないうちに……はいこれ、おみまいのおまけにみかん♪ また送ってきたの。実家から」
「……そ、それって……」
「何、その顔……豆鉄砲食らった鳩みたい」
「……いや、まさか……だって、……けど……昨日のあの衝撃波……あれはもっともレベルの高い攻撃専門の………でもまさか……はは……俺でも、あのチカラは、使った後無事なんかじゃいられないんだ……」
「……リセ?」
「……まさか、な……まさか……まさか、なのか……っ?」
 不安は大きくなっていく。
 鮮明になる頭の中で、疑惑が確信に、近付いていく。
 
 昨日の不可解な衝撃波。
 天使と悪魔、それぞれ混血児の両親。
 
 それから……麻績キサラ、彼女のフルネーム。


「どしたのー? おーい、リセ?」
「……自覚……ないのか? ……全く? そんな馬鹿な……こんな近くにいたなんて……」
「……自覚? なんの?」
 顔を歪ませるキサラ。どうやらリセの今の表情が、とてつもなく妙だったらしい。
 その変な顔についている唇が動いた。 

 キサラを指差して。

「……オミ? ……ヘヴンズ……リンクっ?」

 実に穏やかな、冬の終わりの午後だった。


fin.